日の記 13
13
遠い昔に見たような夢について,私は時たま思い出すことがある.
もしかしたらそれは,本当は夢ではないのかもしれない.けれどどうも現実味がないという点で明らかに夢なのだということが分かる.
朝の身支度をしながら私は今日見た夢のことを考えていた.
最近ほぼ毎朝魔女にあっているのだから彼女が夢に出てくるというのもそこまでおかしな話ではなかろう.
今日はちょっとそのことについて彼女と話してみようかな,と考えている時点で比較的前向きな朝を迎えられていると自己分析できる.
玄関先で靴の踵をうまいこと直しながら家の鍵をかける.
ここは四階でもしかしたら立地もいいことを考えると少しいい物件なのかもしれない.
それでも一人暮らしをするというのは単にとても長い期間,ホテルの同じ部屋に泊まり続けるのと同じようなものであまりこの場所が自分の所有物だという温かみはなかった.
こうして学校に行きたくないな,なんて思いながら私はまた今日も満員電車に詰められに行くのだった.
ここからは紛うことなき現実で,夢なんかじゃない.ほっぺたを引っ張らずとも満員電車の他人の圧で自分の体に体積があることは確認できる.しかし,このところもはや痛みは感じてはいない.
そんなこときっと考えてもいなかっただろうし,あとから今日のこの場面を思い返すことも無いだろう.
今日は前向きなはずだった.そのことを意識しておかなくてはいけない.もったいない,という感情が私にそう言っている.きっと意味なんてない.
ホームを出て日光を浴びると今日のこれまでの出来事は一瞬で幻想と区別がつかなくなる.
どこにも行きたくないはずなのに毎日同じ所へと私は向かうのだ.