@がんばらないで生きていく

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日の記 12

12

 

講義が終わった.

今日もよく晴れた春の日差しが西に傾こうとしている中,私はいつも通り帰宅しようと本館を出た.

本館はこの大学にある建物の中で一番古いらしい..

しかし,たしかに古い建物という出で立ちではあるがそこまで古いとは思えなかった.建物の中は外見に比べるとそこまでの老朽を感じない. おそらく幾年かの頻度で改装しているのだろう.

改装と言うのだろうか.

内側を取り替える,という活動はなんだか生命と似ているなと思った.

言うなれば代謝だ.

 

帰り道,いつものベンチに魔女がいた.

魔女は座りながら自分のつま先を眺めているようだった.

その視線の意味は退屈か,とも思ったが魔女にそういった感情があるのか知らなかった.まだ西日と呼ぶには高い位置にある太陽が魔女の顔を照らしている.

魔女,とは言ってもただの中学生にしか見えない.人間の顔だ.

しかしその顔は泣いているようにも見えて私はなんだか声をかけづらかった.

魔女の前に来る.

けれど魔女はこちらを見ない.

そういえば今日の朝は魔女にあったのだろうか?

何故だかすぐに思い出せなかった.

「こんにちは」と私は言ってみた.

魔女は顔を上げて,あら,と言った.

「ちょっと居眠りをしてしまっていたわ」 と魔女は言う.

寝ていたのか.

遠くからはまるでそうは見えなかったので私は少し驚く.

というか

「魔女も居眠りなんてものをするんだね」

「するわよ.昨日は夜更かししちゃって」

夜更かし.

魔女が夜更かし.

それはちょっと面白いなと思った.

そういえば彼女は日中に活動しているのだろうか?

否,そうではないと夜更かしなんて概念はないはずだ.

それは人類からしたら一般的な魔女のイメージとは違っていて,

「変?」

「いや,変ってことはないさ」と私は答える.

「人類はまだまだ魔女のことを知らないだけなんだと思う」

言ってから私は何を偉そうに人類を代表したような発言をしているのだろうと,少し自己嫌悪に陥った.

「どうして人間は日が落ちたら眠るのがいい,というシステムを作ったのかしら」

「そういうシステムを作った誰かがいるとすればそれは人間ではないね」

本能

それは誰が作ったシステムなのだろう.

「じゃあ神様だっていうのかしら?」

以前にも魔女とは神様の話をした気がした.

その時彼女はなんて言っていただろうか.

「君はさ」

私はもしかしたらこのとき主語を誤ったのかもしれない.

「神様を信じてはいなんだっけ」

魔女は人類よりも真理に近い存在だとこの時私は思っていたし今でもそう思っている.

けれどそれはきっと誤りで,だからこそ魔女は私に対して「いろいろ教えてほしい」などと言ったのだ.

真理というのはきっと神様や彼女のことではない.

それは,

だから,だからこそ魔女はこう答えたのだろう.

「神様というのは人間が作ったもののことかしら?それならば私は全く信じてなんかいないわ」

背に当たる陽が熱さを増して,私は額から汗を流していた.

今日はこんなに暑かっただろうか.

その日私はちゃんと家に帰ったのだろうか?

帰路の記憶がない.

けれど翌日をきちんと布団の中で迎えたのだ,ちゃんと帰ってきたのだろう.

四月の十七日

なんだか見たことのある日付だなと私は思った.