日の記 14
14
「分かっていたことじゃないかしら?」
なんて魔女が言うので,私はきっとわかっていたのだと思う.
けれど,
「目的が分からない」私は何をそんなに焦っているのだろう?
「それは何に対しての発言かしら?」
きっと魔女はまた分かり切っているのにそう聞いているのだ.
「二つある」と,私は魔女の前では無意味な前置きをする.
けれど魔女はきちんと待ってくれる.
「一つは僕の前に現れたこと」
私はそこで少し言葉を区切る.
「そして二つ目は時間の魔法を使ったこと」
「一つ目に目的はないわ」間髪入れずに魔女は続ける.
「そして二つ目は,まああなたには関係のないことね」
私には,ではなくきっと人類には関係の無いことなのだろう.
私は,自分が勝手に
これには深い嫌悪感を感じた.
きっと魔女はたまたま私の前に現れたのだ.
そして,人類には全く関係の無い事情で魔法を使ったのだ.
私は偶然,この場にいるだけに過ぎない.
「じゃあね」と魔女は言って立ち上がりふわっと振り返る.
そのとき私は腕を掴めばよかったのか,もっと大胆に抱きつけばよかったのかわからなかった.伸ばした腕は彼女との距離を零にするところまではいかず,ただ僕らの間の空虚な時空を空振りしただけだった.
そして次の瞬間にはもうそこには何もいなかった.ただただ無があるだけだった.
私はどうすればよかったのだろう.
いつまでも腕を伸しているのも恥ずかしくて私は手を下ろした.別にその手のひらを見つめるでもなく,次にとった行動は周囲の目を気にすることだった.自分があまりにも卑しい人格であることを再認識し,私は酷く落ち込んだ.
魔女は消えた.
私はやっとその事実を認識した.
私は腕時計を見た.とりあえず講義室に向かわなければと思った.
ショッキングな出来事が目の前で起こったというのに,たかが数秒後には平然として次の行動に移る自分が,私はとても気持ちが悪かった.
しかし,なぜなのだろうか.私は歩き出すと同時に非常に泣きたくなったのだ.
何が悲しかったのか,何が苦しかったのか,分からない.
けれど下を向いてはいられなくて私は斜め上を見上げながら階段を上がって講義室へと向かった.きっと変な姿勢だったと思う.